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2011年2月 2日 (水)

発想法

「発想法 創造性開発のために」川喜田二郎:著(中公新書)

先日ご紹介した「こう考えればうまくいく」という本の中で印象的だったアドバイスの一つに、「古典を読め」というのがありました。古典というのは、枕草子や徒然草といったいわゆる古典ではなく、評価の定まった本、価値ある本、という意味です。確かに近頃は、読んだ後「失敗した!」と感じる本が少なくありませんから、時間節約のためにも、良い方法だと感じました。

そこで、本書を読んでみることにしました。以前「創造性とは何か」を読んだときに、きちんと読んでおきたいと感じたからです。とはいえ、初版が1967年の本。書店に行くまでは、在庫があるのかどうか不安でした。

けれどもそれは全くの杞憂。杞憂というよりも、私の無知。なんと私が出かけた大手書店の棚には、3冊も並んでいました。さらに奥付を見てビックリ。なんと「2009年85版」と書いてあったのです。この40年あまりの間に、いったいどれだけの人が本書を読んだことでしょう。ものすごいことだと思いました。これはもう、間違いなく「古典」です。

長い間、書斎科学・実験科学だけにとじこもっていたわれわれは、”現場の科学”ともいうべき野外科学的方法に眼を向けるときにきている──と提言する著者が、問題提起→外部探検(情報集め)→観察→記録→分類→統合にいたる野外科学的方法とその応用について具体的に説きながら、独創的発想をうながす新技術として著効をうたわれるKJ法の実技と効用とを公開する。職場で書斎で、会議に調査に、欠かせぬ創造性開発のための必読書。

以上が見返しに記載された、本書の概要です。引き写しながら、なんとよくできた概要だと思いました。おそらく編集者が書いた文章なのでしょう。内容を端的に紹介しながらも、ポイントとなる用語はきちっと押さえている、プロの仕事、という感じの文章です。

そのポイントとなる用語とは、ずばり「野外科学的方法」と、「外部探検」の二つです。これらは、一般的な辞書的意味とは異なって、川喜田さんが独自の意味を与えています。それを理解することが本書を理解する第一歩であるように感じました。
まず「野外科学」については、次のように述べています。

科学といえば実験科学だという考え方が通俗的に氾濫している。それは、分析的な方法でものごとを検証してみようという傾向である。これに対して、総合的に現実をとらえる野外科学の道は、現実に野外を対象とする諸科学が数々あるにもかかわらず、今日なお「野外科学」として自覚的には確立されていないのである。

世の中の現象には、再現できない一回こっきりの現象が数々あるにも関わらず、再現性のある事象のみを扱おうとするのは、決して科学的ではない、というのです。そもそも科学的であるということは、研究を進めていくための手段であったはずなのに、いつの間にか目的になってしまっている、ということなのでしょう。川喜田さんは、「あらゆる研究は、実験科学・書斎科学・野外科学の3つがそろうことで成立する」と書いています。
これは、ビジネスの現場でも同様だと思いました。現場を離れた商品開発は空疎ですが、社内政治が重視される組織だと発生しがちです。一方現場感覚のみで基礎的な市場調査すら行っていない商品開発も、成功はおぼつかないことでしょう。研究もビジネスも、バランスが重要なのだと思いました。

次に「外部探検」については次のように書いています。

この「外部探検」のときの第一の注意は、問題に「関係のある」情報だけを集めたのではいけないと言うことである。さらに、問題に「関係ありそうな」情報までを含めねばならない。(中略)はじめから探しものがわかっていて、それだけを探しにゆくならば、情報の「探索」という言葉でよいのであった。ところが、そういう魂胆をあらかじめ決めてかかってはいけないのが「探索」の段階である。

これは、現場主義者ならではの言葉でしょう。同時にインターネット時代における情報とのつきあい方にも重要な示唆を与えてくれています。「検索」で手にできる知識は、「はじめから探しものがわかって」いる場合だけであり、それは情報「探検」の一部に過ぎない、というわけです。

本書ではこれらの説明に続き、KJ法の実際について解説がされています。改めて読んでみると、私はKJ法の一部分を、しかも誤って理解していたことがわかりました。考えを付せんに書き付けて、それを考え事にまとめていくだけではないのです。KJ法に対して抱いていた「もやもや感」が、これで一気に解消されました。
企画会議や検討会など、KJ法を仕事に生かしたいとお考えの方には、本書を一読されることを強くお勧めいたします。

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