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2011年2月 4日 (金)

「教員評価」

「『教員評価』――検証 地方分権化時代の教育改革」苅谷剛彦・諸田裕子・妹尾渉・金子真理子:著(岩波ブックレット)

苅谷さんの手になる岩波ブックレットでは、これまで「格差社会と教育改革」「杉並区和田中の教育改革」をご紹介して参りました。どちらもコンパクトにまとめられていた上、毎回新たな示唆をもらえたな、という感想を持っています。価格も安く、A5版と大きめの本なので読みやすく、「お得な本だな」と感じておりました。

ですから本書は、非常に興味深いテーマだったから、という以上に「岩波ブックレットだったから」ということで読んでみることにしました。しかも、帯にはなかなか魅力的な言葉が並んでいます。

「教えるという仕事」の核心に触れざるを得ない、<諸刃の剣>
制度の設計、試行、修正・変更、実施……のプロセスから見えてきたものは?

「諸刃の剣」かどうかは別にして、先生の業務評価は「「教えるという仕事」の核心に触れざるを得ない」というのは、その通りだと思いました。何しろ原理的には、先生方が日々行っている学習評価と同じですから。これについて、本書の「はじめに」では次のように書いています。(ただし、太字は私が設定しました

(教員評価制度は)教職という高度な専門職労働を、あらかじめ設定された要素に分解し、定型化された言葉や数字でとらえ、価値づけようとする試みである。こうして教えるという仕事を外形的に「評価」しようとする制度の導入は、それが「本気」であればあるほど、教えるという仕事の核心に肉薄しようとする。

この文章には、筆者の教員評価制度に対する、ネガティブな考え方がにじみ出ていると、私には感じられました。つまり、教えるというのは高度な仕事だから、定型化された言葉や数値では表せないよ、つまり評価なんてできないんじゃないの? ということです。原理的にはまったくその通りだと思います。この文章に続けて、苅谷さんは「だから、教員評価なんて無理なんじゃないの」とでも書きたかったのではないかと想像しました。

しかし、それではなぜ、企業では人事評価を行っているのでしょうか? 試しに、上記の引用文の中で太字にした部分に、次の言葉を入れてみてください。
 「経理」「商品企画」「マーケティング」「品質管理」「設計」「プログラミング」
いかがでしょうか。どれも十分成立しますよね。要するに、企業で人事評価を行うのは、まさに「○○という仕事の核心に肉薄しようとする」からなのです。

産業が高度化するにつれて、企業の仕事も数値化しにくいものが増えています。上に挙げた仕事はどれもそうです。ですから、導入されている評価制度はどれも理想的なものではありません。不満を持っている人も少なくないことでしょう。けれども、少なくとも半期に一度は人事評価によって仕事のパフォーマンスをチェックしなければ、たちまち業界から取り残されてしまいます。だからまともな企業では、評価制度を不断に見直しているのです。評価が目的ではなく、業績を伸ばすことが目的ですから。

ところが本書では、明らかに企業の人事評価制度を下敷きにして立案されたであろう、宮崎県の教員評価制度について、その導入と修正の過程を追っているだけのように感じられました。評価シートの中身や、その運用方法、評価を受ける人の意識、評価をする人の意識などについて、企業における人事評価と対比しながら分析すれば、教員評価ならではの特性や課題が浮かび上がったはずなのに。
それと、数値が多い割に図表が少なく、非常に読みにくい編集にも課題を感じました。

全体として宮崎県がどのような制度を導入して、それを現場がどう受け止めたか、ということはなんとなく分かったものの、成果や課題といった点については、どうにも消化不良の感が否めませんでした。それから、学習評価は日常行っている先生が、勤務評価をどう受け止め、運用したか、という点が知りたかったのに、その情報もありませんでした。ちょっと残念です。全体傾向を知るにはよい本でしたが、残念ながら満足度は低い本でした。

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コメント

おはようございます。
TBさせていただきました。
自分が書いたものも復習してみたのですが、
やっばりなかなか難しいですね、教員評価。
これをあんなふうに読んで以降、
内田樹の論考に揺さぶられたりしているのですが、
教員の教員としての矜持をくすぐれるような
運用ができる可能性はなくはないと思っています。
まっ、それはさておき、この本の消化不良性については
同感です。

投稿: 時折 | 2011年2月 8日 (火) 08時02分

時折さん、TBとコメントありがとうございました。
時折さんのブログはチェックしていたつもりだったのですが、本書に関する記事は読み落としておりました。
>> 教員の教員としての矜持をくすぐれるような
まさにそうですね。企業の評価も、10年くらい前には成果主義が花盛りでしたが、現在は組織の活性化や社員のモチベーション向上など、「人」にフォーカスしたものが中心となってきているようです。

本書から感じたのは、「教員は高度な専門職だから、成果主義の評価などできやしない」という結論ありきで調査と執筆が開始されたのではないか、ということです。研究としても書籍としてもかなり不十分な内容だと思いました。

評価を上手に運用すれば、必然的に組織が意識されますから、この難しい時代に、先生が個人として矢面に立つことが無くなるのになあと思わずにはいられません。

投稿: むらちゃん | 2011年2月 8日 (火) 08時30分

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