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2011年4月 4日 (月)

日経サイエンス(2011年5月号)

「日経サイエンス 2011年5月号」(日本経済新聞出版社)

震災後減退した読書意欲は未だ完全には復活していません。正直申しますと、先週の記事も震災前に書きためていたものでした。
一方週刊誌やマンガは変わらず読み続けています。そんな中で自宅に届いた本誌。表紙に大きく掲載された特集のタイトルは「史上最大の望遠鏡」、表紙にもハワイの天体望遠鏡の写真が掲載されています。

ただでさえ天文学にあまり興味のない私。加えて連日報道される原子力発電所の事故によって、科学技術に対する信頼が揺らいでいます。「とてもじゃないけど、読む気分になれない」となるかと思いきや、実際にはいつもと変わらず読むことができました。

それは本誌の冒頭の4ページに掲載されている、主な記事のダイジェストのおかげです。このダイジェストについては、最初に本誌を紹介したときにご紹介させていただきました。このときは、記事がオーバービューできる、という点をメリットとして紹介しましたが、今回は、読書のリハビリと申しましょうか、自分の興味の向きに合わせて読むことができるという点ですぐれた構成だと感じました。

このダイジェストの中で私が気になったのは「言語で変わる思考」という話題と「肥満社会の処方箋」という記事でした。
まず「言語で変わる思考」の紹介記事は、こんな具合

近年、言語が異なると、それにともなって認知能力も変わることを裏付ける確かな証拠が得られ始めた。言語は、これまで科学者が認識していたよりも、ずっと多くの局面で思考を形作っているようだ。

記事では、母語とする言語によって空間認知能力、記憶力に差があることを明らかにした実験が紹介されていました。このうち記憶力の差を調べる実験で、英語、日本語、スペイン語の話者に同じビデオを見せ、その内容を母語で説明してもらったところ、スペイン語と日本語を母語とする人は、動作主対に関する記憶が、英語の人に比べて弱かったのだそうです。日本語はしばしば主語を省きますから、感覚的に納得できる一方、スペイン語は以外でした。さらには、数の概念の習得や色の認識にも影響しているのだとか。
そういえば、算数教育に詳しい編集者の方から、「日本の算数教育のやり方は、フランス語を母語とする子どもたちにはあまり適さない」と聞いたことがあります。この記事では、他にも多数の興味深い心理学実験が紹介されていて楽しく読めました。

もう一つ興味を引いた記事、「肥満社会の処方箋」というのは、ダイエットに関するパラダイムシフトともいうべき記事でした。やはりダイジェストから引用します。

かつて赤痢やコレラは人々の命を奪い社会に損害を与える流行病として恐れられた。現在の先進国では別の病が蔓延している。肥満だ。米国では成人の1/3が肥満、さらに1/3が太り気味だ。肥満になると生産性が下がり、健康を損ねて医者にかかる。社会的損失は1人あたり年間7000ドル以上との試算もある。肥満に関する代謝や遺伝子、神経科学的な研究が進んでいるが肥満解消の決め手は見つかっていない。では視点を変えてみたらどうか? 流行病を征圧するには社会的な対策も重要だ。赤痢やコレラでは上下水道などの整備、つまり清潔な環境作りが有効だった。肥満にも一見地味だが、科学的に裏づけられた肥満抑制の対策がある。

これまでのダイエット研究は、ほとんどが対症療法的だったのに対して、社会全体として太りにくい社会を作って行こう、という研究が始まったという記事です。これは有効な考え方だと思いました。少なくとも厚生労働省が行っている、「メタボ対策」などより有効に機能しそうです。
実際、アメリカのいつくかの州ではハイカロリーなお菓子に、子ども向けのおもちゃを組み合わせての販売が禁止されているのだとか。そのうちに、タバコと同様、スナック菓子にも「あなたの健康を損なう恐れがあります」みたいな表示がなされるようになるのでしょうか。
とはいえ、そうした行動を改善して行くプログラムは、当の太っている人にはあまり人気がなく、「やせるサプリ」など、お気軽なものが人気なんだとか。なかなか難しいものです。まあ実効性はともかく、肥満を社会コストを増大させるリスク要因と定義して対処する、という考え方は非常に面白いと思いました。こういう逆転の発想ができる人になりたいものです。

こうした従来から興味のあった内容を読むうちに、他の記事も自然と楽しんで読めました。「野菜からバターが作れるかもしれない」という遠心分離器の話題や、千葉県で発見された新鉱物「千葉石」の話題など、興味深い小ネタもたくさんありました。
震災で傷ついた「読書する心」を癒すのに、日経サイエンスは有効なサプリメントだと思います。さらに、事実上の「震災後発行号」である次号にも大変期待したいと思いました。

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