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2011年4月 6日 (水)

新卒教師時代を生き抜く心得術60

「新卒教師時代を生き抜く心得術60―やんちゃを味方にする日々の戦略」野中信行:著(明治図書)

以前ご紹介した「若手教師のよくある悩み」は、いろいろな意味で衝撃的な本でした。同書で野中さんが繰り返し述べておられたのは、「まず学級づくり」ということ。
それまで私は、授業を成立させているのは、教材研究とそれを支える教育技術だと信じていましたので、価値観がひっくり返りました。そこで、その考え方をもっと知りたいと思い、同書でたびたび引用されていた、本書を読んでみることにしました。

最初に本書を目にしたときは、なんとものすごいタイトルの本だろうかと思いました。「生き抜く」ですから。まるで学校は無人島かジャングルのようです。しかし、このタイトルには、野中さんの強い思いが反映していたのでした。それが「プロローグ」に端的に書いてあります。

私は、次の3つのことをできるだけ身につけて勤務校に来て欲しいという願いがある。

  1. 学級の仕組みづくりを考えておくこと
  2. 子供への基本的な対応の仕方を知っておくこと
  3. 日々の時間管理をする手帳を準備すること

この3つを中心に、どうしたらいいかを具体的に提起したのが本書である。(中略)新卒教師は、もっと悩み抜いて、人のマネをしないで自分の実践を編み出して欲しいと言うベテランは、まだ多い。私は、違う。若い頃は、徹底的にマネをした方がいい。(中略)私が提起している実践は、日々の実践の中で身につけ、繰り返し試した上でのものである。すぐれた実践ではないが、日々を乗り切るには、十分な実践だと自負している。何よりも1年間を乗り切っていくには、十分に参考にしてほしい実践である。
「1年間をとにかく生き抜け、2年目からは何とかなる」

なんとも強いメッセージです。この根本には、教育界の現状に対する野中さんの強烈な危機意識があるように感じました。おそらく「1年目を生き抜け」というのは、決してメタファーではなく、文字通りの意味なのでしょう。昨今の報道でも、初任の先生の自殺や、着任1年以内で退職する先生が増えている、というのがありました。教育界の現状は想像以上に深刻であり、緊急の対策が必要な事態なのだということが伝わってきます。

ではどのように対処すればいいのか──本書では、若い先生が取り組むべき中身を5つに分け、次のように解説しています。

  • 第1章 始業式までの心得術9
  • 第2章 1年間を見通した学級経営のための心得術23
  • 第3章 教科指導をスムーズにするための心得術12
  • 第4章 効率よく学校事務をこなすための心得術8
  • 第5章 保護者との関係をよくするための心得術8

従来若い先生への指導というのは、「なにより授業」であったり「その前に教材研究だ」といった教科指導に関するものがほとんどだったように感じます。けれどもご覧の通り、本書では学級経営や事務作業、保護者との関係を重視しています。結局そこが定まらないと、教科指導どころの話ではないということだと理解しました。「学校の先生」というだけで、親や地域から無条件に尊敬されていた時代では、おそらくこうしたノウハウはほとんど必要なかったはずです。

「いやはや現代の先生は大変だなあ」と思う一方で、よく考えてみると、企業での部門運営も構造としては同じだなあと思いました。いくら美しい部門目標を提示し、報奨金などを設定しても、部内メンバーの意識統一がなされなければ成果は上げられません。一時的に上がったとしても継続はしません。そのように考えた上で、本書をもう一度読んでみると、企業の管理職でも参考になる示唆がずいぶん含まれていることに気づきました。

結局、学級「経営」というくらいですから、企業の組織マネジメントと共通性があるのは当たり前でしょう。先生方も企業の人間も、とかく「教育界は別」と考えがちですが、案外共通性を見出して参考にしてゆくと、これまでとは違った地平が見えてくるのではないでしょうか。そんな可能性を感じさせる1冊でした。
若い先生だけでなく、企業の若葉マーク管理職にもぜひお勧めしたいと思います。

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