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2011年4月18日 (月)

野茂英雄

「野茂英雄――日米の野球をどう変えたか」ロバート・ホワイティング:著/松井みどり:訳(PHP新書)

ロバート・ホワイティングさんの本はこれまでも何冊か読んでいます。代表作のひとつ「和をもって日本となす」は、日米の野球を題材とした割合辛口の日本文化論、といったところでしたし、スポーツ雑誌の「Number」で時折見かける評論も、鋭く、厳しいものが多い、といった印象でした。

そのホワイティングさんが久々に出した新書ということで、本書に興味を持ちました。なぜこの時期に書くのか、なぜ野茂投手なのか――こうした疑問は、第1章の書き出しによって、簡単に解消しました。

 野球の日米関係の歴史は、二つの時代に大別されるといっていい。野茂以前と野茂以後だ。
 この大別の重要性をけっしてあなどってはいけない。若い読者には信じられないかもしれないが、野茂がメジャーリーグへ進出するまで、アメリカ人の多くは、日本で野球がおこなわれていることさえ知らなかったのだ。知っていた連中は、日本野球を見下していたふしがある。
(中略)
 日本は日本で、海の向こうのライバルに、多少のコンプレックスを抱いていた。一九八〇年代まで、シーズン後にメジャーリーグと戦う、”親善試合”では、たいてい一方的に負けていたからだ。
(中略)
 ところが野茂の登場によって、すべてが一八〇度好転した。一九九五年に野茂がアメリカへ”野球亡命”して以来、日本のスター選手たちが続々と彼に倣い、日本野球の躍進ぶりを証明している。
(中略)
 結論を言えば、ぼくも野茂に感謝したい。君は三十九年間で九回を大きく変えた。君がいなければ、球場の景色は今とはまったく違っていただろう。

野茂選手は日米野球の関係史における分水嶺だというわけです。私自身は、野茂選手が、近鉄からアメリカに渡ったことや、その後の活躍については、リアルタイムでテレビや新聞で見聞きしていました。日本のマスコミのバッシングも、その後の掌返しも含めて。ところが本書を読んでみて、その移籍の経緯を何ひとつ知らなかったことを痛感しました。

  • 野茂選手がアメリカを目指すことになったわけ
  • メジャーリーグのチームに移籍するために使った方法

この、野茂選手の移籍に関わる重大なポイントについて、本書は詳細に説明しています。当時の新聞やテレビは、感情的な報道に終始していて、「野茂=悪い人」という伝え方オンリーでした。こうした報道を通じて、私の中には「野茂は規則違反」という認識が生まれていました。けれども、本書では日本の野球協約の盲点を突いた、合法的な移籍だったことが書いてありました。おそらくこれが事実でしょう。驚きました。
と同時に、こうした感情的な報道に対して、「何が、どう悪いのか」ということに思いを巡らせることなく、納得してしまっていたことを情けなく思いました。メディアリテラシーのかけらもありません。

一方で、ホワイティングさんの丹念な取材ぶりには舌を巻きました。この本のためにどれだけの人にインタビューし、資料を集めたのだろうかと感動します。野茂選手がデビューを飾り活躍した後、調子を落として移籍し、低迷した後復活し、また低迷して復活するという過程が実に詳しく記述されていました。ホワイティングさんが野茂選手を評価する大きなポイントの一つが、この「復活」にあるのですから、これは当然の取材活動ということもできますが、昨今の粗製濫造気味の新書界にあっては特筆すべき事と言えるでしょう。

最終章において、ホワイティングさんは、「野茂選手は、メジャーリーグの殿堂入りにふさわしい選手か否か」について述べています。その中で実に多くの人々からコメントをもらっていました。全体として「殿堂入りには反対」という声の方が多いように感じられます。けれどもむしろ、選手としては平凡よりちょっと良いだけの成績にもかかわらず、殿堂入りが論議されるということ自体が素晴らしいことです。
そして何より、人の評価というものは、光の当て方によってこのように正反対になるのだなと実感しました。この最終章を読むだけでも、本書を読む価値があるなと思います。野球に興味のある方なら、特にお勧めいたします。

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