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2011年4月11日 (月)

三匹のおっさん

「三匹のおっさん」有川浩:著(文藝春秋)

本書は、発売以来ずっと気になる存在でした。まず発売後すぐに、週刊文春の書評で紹介されているのを読んで興味を持ちました。60歳過ぎの、少し前の時代なら「老人」といわれた世代の「おっさん」たちが繰り広げる勧善懲悪劇というのも面白そうでしたし、何より作者の有川さん自身に興味を持ちました。
Wikipediaで調べたところ、お名前は「ありかわひろし」さんではなく、「ありかわひろ」さんとお読みする、女性作家だったのです。女性作家の描く「おっさん」。ストーリーよりも、まずはそっちが気になりました。

期待が半分、不安が半分といった気持ちで読み始めた本書ですが、結論から言うとなかなか楽しく読めました。少なくとも「深く考えず、痛快な物語を読んですかっとしたい」という、今の私の気持ちにはぴったりの本でした。

物語の冒頭、大手企業を定年退職し、同時に自宅で細々と営んでいた剣道場を閉めることになった清田清一の様子が描かれます。清一は、妻から、二世帯住宅で同居している嫁(息子の妻)が、赤いちゃんちゃんこを準備しているらしいことを聞き、不機嫌になります。

 還暦の赤い三点セットなど清一の感覚としては自他共に認める「おじいちゃん、おばあちゃん」が贈られて身につけるものである。自分の父母がそれを身につけていたことには違和感はなく、父母はその頃にはそれぞれに還暦の赤が似合う年輪を持った「おじいちゃんおばあちゃん」になっていた。
 だが、自分がそれを着せられるところを想像すると嵌らない。自分は髪もまだ黒く、禿げる質でもなく、長年剣道をやっていたお陰で足腰もしゃんとしているし、姿勢などはそこらの若い者などよりずっときれいなくらいだ。
 自分の父母の頃から平均寿命も延びた現在、六十歳を「おじちゃん」の範疇に入れられるのはまだまだ違和感がある。続柄として自分を「おじいちゃん」と呼ぶ家族が存在するとしても、社会的に「おじいちゃん」扱いされるのは納得がいかなかった。

そしてこのあと、清一は「六十歳はまだまだおっさんにしておいてほしい」とつぶやきます。おそらくこれは、多くの60代の方の真情ではないでしょうか。そしてこれがきっかけとなって、地域の小さな悪を懲らしめたり、トラブルを解決したりする集団「三匹のおっさん」が結成されることになります。

けれども、このちゃんちゃんこを贈ろうとした嫁に対して、面と向かって怒ったのは、清一ではなく、妻の芳江と孫の祐希。そしてまた、その怒りの中身は、実はちゃんちゃんこではなく、それ以外のところにありました。つまり、物語は「三匹のおっさん」による痛快活劇である一方、初老と呼ぶにはまだ早い彼らの世代における家族問題も描いているのです。発生するトラブルと、描き出す家族像がうまいことリンクしているので、テンポ良く読み進められました。
同時に、この世代、とりわけこの世代の男性を主人公しかもヒーローとして描いた作品などあるだろうかと考えました。それも、同世代から評価されるだけでなく、高校生など若者からも慕われる存在として。そういう意味で、本書は「おっさん」世代への応援歌なのだと思いました。文藝春秋に連載されたと言うこともうなずけます。

「三匹のおっさん」というタイトルは、まさに「おっさん」たちが青春時代に観たであろう、人気時代劇「三匹の侍」のパロディであることは間違いないでしょう。その、予定調和的なトラブルの解決の過程もよく似ています。けれどもだから安っぽいというわけではありません。むしろ、有川さんは女性なのに、しかもまだお若い方なのに、どうして「おっさん」の気持ちが分かるのだろうと舌を巻きました。

「とにかく楽しい作品を読みたい」という方におすすめします。「おっさん」世代の方には特に。むろん、そうでない方にも。

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» 「三匹のおっさん」 有川浩 [日々の書付]
「図書館戦争」などベタ甘文学のスペシャリスト、有川浩先生による異色のシニア活劇小説「三匹のおっさん」 これは面白い!!今まで読んだ有川作品でもかなり上位に入る! 剣道の達人キヨ、柔道家で居酒屋亭主のシゲ、機械にめっぽう強いノリは子供のころから「三匹の悪ガキ」と呼ばれていた。定年や隠居で暇をもてあました三匹のおっさんは、私設の自衛団をつくり地域のさまざまな事件に首を突っ込んでいき、武力と知力、経験値でうまいこと解決していきます。 三匹のおっさんposted with amazlet at... [続きを読む]

受信: 2011年4月14日 (木) 18時39分

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