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2011年4月 8日 (金)

思考の補助線

「思考の補助線」茂木健一郎:著(ちくま新書)

「脳と創造性」(PHP研究所)で驚嘆し、NHKの「プロフェッショナル」降板劇でえ~と思い、「日経サイエンス」の連載で再認識し、バラエティ番組への出演で幻滅し、Twitterで改めてファンになる──茂木さんに対する私の思いは、ここ数年でまるでジェットコースターのように上がったり下がったり、めまぐるしく変化してきました。そこでそろそろ、何かまとまった著書を読みたいなと思っていたときに本書を見つけました。

茂木さんの著書は、非常にたくさんありますが、たいていタイトルに「脳」がついてます。本書を読もうと思ったのは、まさに「脳」がないから(笑)でした。しかもなかなかしゃれたタイトルです。
さらにカバーの見返し部分には、こんな威勢のいい紹介文が掲載されていました。

幾何学の問題で、たった一本の補助線を引くことが解決への道筋をひらくように、「思考の補助線」を引くことで、一見無関係なものごとの間に脈絡がつき、そこに気づかなかった風景がみえてくる。この世界の謎に向き合う新たな視座を得ることができる―。「知のデフレ」現象が進む日本で、ときに怒りを爆発させながらも、「本当のこと」を知るために探究をつづける著者の、情熱的な思索の過程が本書である。自由軽快に、そして粘り強く考えるヒントを、自らの一身を賭して示す。

ときに怒りを爆発させながら、粘り強く考えるヒントを自らの一身を賭して示す」というのは、ものすごい表現です。ただ確かに、研究者の中にはアカデミズムの現状に対する怒りはあるのでしょう。以前ご紹介した川喜田二郎さんの「発想法」や、「梅棹忠夫語る」では、確かに研究者の「知的怒り」とも言うべき熱い思いが語られていました。この紹介文を読んで、本書もそうした「怒り」が語られているのだろうと想像しました。

けれども実際には、あまりそうした「怒り」は伝わってきませんでした。むしろタイトル通り、考え方の「補助線」を何本が引こうと試みている、といった印象です。怒りを期待した部分もあったので、その点については少々残念だったものの、いくつかはっとさせられる「補助線」がありました。
たとえば、金子みすゞさんの代表作「私と小鳥と鈴と」を引用しながら、次のように述べています。

「みんなちがって、みんないい」という言葉の美しい響きを、私たちはどれくらい本気で信じることができるのか。「地獄への道は良心で敷きつめられている」ともいうが、人間的誠実とシステムの原罪は紙一重である。(中略)たとえば「垂直方向に挑戦されている」という言い回しについて考えてみよう。(中略)そこに隠蔽されているのは、「みんなちがって、みんないい」という多様さへの賛辞ではなく、むしろ本音では単一の価値体系を信じている、単純なる世界観であるということになろう。

具体的な説明部分を省いてしまったので、ちょっと意図が伝わりにくい引用になってしまったことをお許しください。要するに、「違いを容認できる社会ってのは、そうそう簡単にできないよ」ということについて、様々な事例を紹介しながら解説しています。金子みすゞさんの詩に感動して、「そうだよな」と思ったとしても、それだけでは均質性、同調性を旨とする私たち日本人の思考は、なかなか変えられない、ということなのでしょう。
このたびの震災で、インターネット上には実に様々な情報や主張が交わされました。その情報洪水の中で、同調思考によるパニックが少なからず発生しましたし、私自身も知らず知らずのうちに同調思考になっていたことを思い出します。

こうした、思わず膝を打つような「補助線」がある一方で、全体的に本書は、やや散漫な印象を受けました。あとがきによれば、本書は筑摩書房の広報誌に連載されたコラムをまとめたものとのこと。ならば散漫になるのも致し方ないかなとおもいつつ、もうちょっと何とかならなかったのか、とも思います。
それと、表現についても、過剰に難解な語彙や言い回しを使用している点が多々あり、読みにくい印象がありました。茂木さんとしては、「過剰なわかりやすさへの反旗」という意図があって、おそらくはわざとなのでしょうけれど。

読書リハビリの一冊として、ちょっと歯ごたえのあるものを読んでみよう、と思って手にした本書。分かりやすさからの決別、とも言うべき潔いほどの思い切りによって、確かに特徴ある本となっています。いくつかの、はっとするような視点にも出会えます。現代の「薄味な本」に飽き飽きした、お嘆きの貴兄に、ちょっとだけお勧めしたい一冊です。

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