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2011年5月23日 (月)

王様は裸だと言った子供はその後どうなったか

「王様は裸だと言った子供はその後どうなったか」森達也:著(集英社新書)

物語の続きを考えるというのは、国語の授業でしばしば行われる活動です。私も子どもの頃は、わりと好きな活動でした。先生の意図はともかく、勝手な妄想を膨らませては喜んでいた記憶があります。

本書のタイトルを見たとき、まずこのことを思い出しました。しかし、単なる続き話なら新書で出るのはおかしいですし、それに著者は、あのタブーに挑戦し続ける森さんです。これはきっと何かあるのだろうと言うことで読んでみることにしました。

話題の映画監督・ドキュメンタリー作家の森達也が、誰もが知っている古今東西の十五の物語を、痛快にパロディー化!「桃太郎」を始めとする日本の民話、ギリシャ神話、イソップ、グリム、アンデルセン、さらにはセルバンテス、オスカー・ワイルド、芥川龍之介、浜田廣介といった作家たちの名作に触発された著者の筆は、急速にムラ化しつつある現代社会に、男と女の深遠に、ふてぶてしく、無遠慮に切り込み、その特質と異常性そして切なさを浮き彫りにしていく。毒気たっぷりの風刺精神とユーモアセンスにあふれる、独創的な現代日本論。

表2の見返し部分には、このような紹介文が記載されていました。「独創的な現代日本論」ですか。ふ~んと思いながら読み始めてみると、私には、昔話や名作に着想したエッセイであるように感じました。むろん、エッセイであるからといって、「現代日本論」と比べて価値が低い、とい言うわけではありません。むしろ森さんが映画監督であり、ドキュメンタリー作家であるがゆえに、非常に面白い切り口で語られていると思いました。

たとえば「第二話 桃太郎」。ドキュメンタリー作家であるご自身の仕事のことから語り始め、ジャーナリズムにおける「客観性」ということについて論じています。

表現行為であるかぎり、ノンフィクションなどありえない。すべての表現は作者の主観が織りなすフィクションだ。(中略)この原則に無自覚になったとき、ジャーナリズムは大きな間違いを起こす。絶対的な公正を体現してしかも中立であるとの錯誤から、自らは正義であり、報道することによって悪への懲罰を与えるのだと思い込む。

実に、思い当たる事例の多い指摘です。そして、このような寓意が込められた民話として、桃太郎を紹介しています。その書き出しはこんな具合。

桃から生まれた桃太郎は、やがて立派な青年へと成長し、優秀な成績で大学を卒業して、正義を愛する崇高なジャーナリストになりました。

なんとも皮肉たっぷりの書き出しですが、この「正義漢:桃太郎」が、鬼を「悪」と信じ、正義の報道のために鬼ヶ島に乗り込む、というストーリーに仕上がっています。多くの人が知っている桃太郎のお話と「事実」は変わりません。しかし視点が違います。それゆえ読者は「主観が織りなすフィクション」ということを実感できるというわけです。

続いて第三話では、仮面ライダーに出てくる戦闘員の悲哀が描かれ、第四話では、赤ずきんちゃんの欺瞞が描かれ、第六話では、瓜子姫のエロチシズムが描かれています。なんだか「空想科学読本」の民話版のような雰囲気です。私自身、ショッカーの戦闘員にも生活があるなんて、考えてもみませんでしたから、森さんの想像力に感嘆しました。こういう多面的な見方ができるのが、ジャーナリストというお仕事なのでしょう。
さらに本書では、古今東西の童話や民話が俎上に上がり、様々な視点で語られています。

本書では、森さんの主張と物語の原典の引用、それからパロディ話と、3段階の話が、交互に登場する形で展開しているので、少々読みにくい本です。しかも、パロディ話は、必ずしも面白いわけではありませんcoldsweats01。けれども多面的な視点を獲得できたという点で、読んで良かったなと思いました。もしかすると、メディアリテラシーの教材になるかもしれません。

全部で十五のお話しからなる本ですから、読書が中断しがちな通勤途中などで読むのに適した本だと思いました。

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