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2011年5月 2日 (月)

戦略プロフェッショナル

「戦略プロフェッショナル―シェア逆転の企業変革ドラマ」三枝匡:著(日経ビジネス人文庫)

本書の著者、三枝さんはアメリカのコンサルタント会社、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)で日本人として初めて日本国内で採用された方です。BCGという会社は、ビジネスの世界に初めて戦略理論を導入したと言われています。ですから三枝さんは、日本人初の経営戦略のプロと言えるでしょう。

それだけでも興味をそそるのに、少し前に何かの雑誌の書評で絶賛されていたことから読んでみることにしました。

けれども読み始めてみると、少し予想が外れました。戦略理論や経営ノウハウの説明が始まるものと思っていたのに、プロローグはともかく、冒頭は小説仕立てで始まるのです。冒頭部分を簡単にまとめてみます。

日本有数の鉄鋼メーカー、「第一製鉄」の広川洋一は36歳。アメリカで経営学修士を取得したエリート社員。彼は、同社が出資する「新日本メディカル」という医療機器メーカーの社長小野寺から、伸び悩む業績を改善するため、常務として出向してもらえないかと誘われ、受諾する。未経験の業界である上、大企業から落下傘で降りてきた若年常務。まさに内憂外患の状況でのスタートだった。

なんだか、三文小説のあらすじのようになってしまいました。実際、読み始めたときは、正直そんな感想を持ちました。この小説はいくつかの章に別れていて、章の終わりには、小説を解説する形で経営理論が語られるので、内容に不満はありません。
それでも最初のうちは、こんな小説風の、しかもお世辞にも出来がよいとは言えない小説の体裁で説明することは、果たして効果があるのだろうかと疑問に思いながら読み進めました。

ところが、第2章に入り、広川が実際に戦略の立案を迫られてくるあたりから、俄然面白くなってきました。たとえば、「プロダクト・ライフサイクル」の解説。これは、市場シェアをその市場のステージに応じて捉えるべき、という考え方です。
つまり、その商品を投入しようとする市場が、黎明期あるいは成長期であれば、シェアが低くても逆転可能であるのに対して、安定期や衰退期であれば逆転は不可能という考え方です。そんな分析をすることなく、「とにかくシェア拡大」「とにかく売上増加」という大号令をかけるだけ、という会社が多い中、広川たちは、新日本メディカルの命運を賭けた商品が、十分市場を席巻できると分析します。

これが小説という体裁を採らず、解説だけで説明されたとしたら、これだけ端的に理解できたろうかと考えました。何でもそうですが、実践があって理論(法則)があるのです。たぶん理論が先ではありません。そういう意味で、本書の構成はすばらしいと思いました。3章、4章と読み進めるのが楽しみになったほどです。

そして4章では、広川が新日本メディカルの営業マンたちに具体的な目標を設定する場面が訪れるのですが、三枝さんは、そこで読者に「あなたなら、どんな目標を設定しますか」と問いかけます。まるで演習ノートのように。そして読者に目標設定を体験させた上で、戦略の重要性を解説しています。これは、読者が実感的に読めるという点で、実にうまいやり方だなと思いました。この説明の中で、最も「なるほど」と思ったのは次の説明でした。

良い戦略は極めて単純明快である。逆に、時間をかけ複雑な説明をしないと理解して貰えない戦略は、だいたい悪い戦略である。悪いという意味は、やっても効果が出ないという意味である。

ある教育委員会では「今年度の重点教育目標」として、なんと13もの目標が設定されていました。13もあったら「重点」ではあり得ませんし、そもそも「目標」として機能しているかどうかも怪しいものです。そこから導き出される戦略が、単純明快でありようはずがありません。

このところ「教育書がビジネスに生きる」という記事を書いて参りました。本日はその逆です。ビジネス書が教育に生きるというお話し。新年度に当たり、学校でも研究目標や生活目標を立てたことでしょう。その目標に至るまでの戦略が、もし単純でないとしたら、本書を一読されることをお勧めいたします。

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