« 12歳からはじめるHTML5とCSS3 | トップページ | ルポ労働格差とポピュリズム »

2013年1月28日 (月)

俺の考え

「俺の考え」本田宗一郎:著(新潮文庫)

昔のドラマを見たり、歴史の本を読んだりすると、「昔は大変だったな」と思うと同時に、当時に比べて現代社会は発展・発達を遂げていると感じます。実際、テレビ電話や薄型大画面テレビなんて、私が子どもの頃に夢見ていた物そのものですから。
しかしそれらは、あくまでテクノロジー面のこと。人間の頭の中は、果たして発達しているのでしょうか。歴史に学んでいるのでしょうか。本書を読んで真っ先に考えたのは、そんなことでした。

本書のオリジナルは昭和38年刊行とのこと。約50年前に書かれた本です。にも関わらず、ここに書かれていることのすべては、現在でも通用するどころか、ビジネス書等で再々言われていながらも、多くの企業で実践できていないことばかりでした。本田宗一郎さんが優れた経営者であると言われる理由の一端を垣間見た思いです。
まず冒頭の「歓迎したい悪口二つ」という章に書かれた、次の部分にしびれました。少し長くなりますが引用します。

大体おとなというのは過去を背負っている。過去に頼っていい悪いを判断するから、百八十度転換したときには非常にあぶないイデオロギーで現在をみつめる。私はこれが一番危険であるとみた。おそらく若い人も納得できないと思う。設備とかそういうものは金を出せばどんなにも変る。ところが一番変わらないのは、考え方、いわゆる石頭だ。これは金を出してもどうしても変らない。ただで変えられるものを変えずにいて、若い者を悩まし続けなければやっていけない。百八十度転換しなければならないわれわれ年輩の人が悩もうとせずに、若い者を悩まし続けているのが現在ではないか。

おそらく現在の経営者が書いたと言われても、何の違和感もない文章でしょう。それは本田さんの先見性と普遍性もさることながら、時代がそう感じさせるのかもしれません。この文章が書かれたのが敗戦から約20年後であり、現在はバブル崩壊から約20年後です。バブル崩壊は敗戦以上の経済的損失、という試算もありますから、「年輩者こそ発想の転換を」という主張に説得力があるのだろうと思いました。

本書は他にも光る言葉ばかりです。短い文章ばかりなのに、非常に分かりやすい上に説得力があります。特にたとえ話が秀逸です。いくつか要約してご紹介します。

  1. 人間はちょうど信用とカネを天秤棒で前と後ろに背負っているようなもの。カネが欲しいと思ってカネの方へ支点を近づければ、カネは上がるけれども、信用はガタ落ちである。両方を高めるためには、結局は自分自身を高めるしかない。
  2. ウサギは坂を登ったり速く走るのは得意だが、下り坂ではからきし遅い。動物とは違い、企業に不得手があってはならぬ。企業には多様な人材がいるのだから、景気の下り坂は、下りに強い人間に任せればよい。それゆえ人の調和が必要となる。
  3. 父はよく「一尺のものさしの真ん中は端から五寸のところではない。端から四寸ずつの所、二寸の間を置いたところが真ん中だ」と言った。そうしないと話し合いも仲裁もできないからだ。
  4. 検査体制のすばらしさを宣伝している企業があるが、製品の悪さを表明しているようなものだ。モノを作ってしまってからいくら検査をしても、失敗の元には返らないからだ。
  5. 本物のリンゴは食べられるが、描いたリンゴは食べられない。にもかかわらず一流の画家がかいたリンゴの方が八百屋で売っているリンゴより値打ちがあるのは、その人の個性が入っているからだ。ここにデザインを考えるヒントがある。
  6. 経営者に一番大事なことは、「従業員は自分の生活をエンジョイするための一つの手段として働きに来ている」という意識に徹することだ。滅私奉公のつもりで来ているのと、生活をエンジョイするために真剣に働く人とは違う。

紹介したい言葉が多すぎて、記事のほとんどが引用になってしまいましたcoldsweats01。しかし、ご覧の通り、どのような年代のどのような立場の方が読んでも参考になる言葉ばかりです。
私自身は、特に「5」と「6」に心打たれました。「5」の「製品とデザイン」では、ホンダ車のファンが惚れるというデザインの秘密の一端を見たような気がします。また「6」の経営に関わる部分では、「従業員にはできるだけ高賃金を払うべき」という持論を論理的に展開していました。こういう考え方だったからこそ、ホンダを世界有数の企業にすることができたのでしょうし、引退後も永続・発展する企業にできたのでしょう。

本書の解説は、かの城山三郎さんです。「本田さんの言葉に解説など不要であるが」と書き出された「解説」は、主として本田さんの引退後について触れています。すぱっと会社を辞められた本田さんが、城山さんに趣味を聞かれ、「実は仕事が一番楽しい」と耳打ちしたシーンは、後進に道を譲ることなく、また育てることもなく地位にすがりつき、老害を振りまいている経営者が少なくない中で、とても印象的でした。

何度も読み返したくなる、愛読書と呼ぶにふさわしい名著です。

|

« 12歳からはじめるHTML5とCSS3 | トップページ | ルポ労働格差とポピュリズム »

エッセイ」カテゴリの記事

ビジネス書」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29188/49008965

この記事へのトラックバック一覧です: 俺の考え:

« 12歳からはじめるHTML5とCSS3 | トップページ | ルポ労働格差とポピュリズム »