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2015年9月30日 (水)

おーい!おーちゃん

「おーい!おーちゃん!―自閉症の弟と私のハッピーデイズ」廣木佳蓮/廣木旺我:著(黎明書房)

 本書は、大阪市在住の女子大生、廣木佳蓮さんが、一つ下の弟(愛称:おーちゃん)と共にすごした、保育所から、小学校、中学校、高校までの日々を綴ったエッセイです。
 おーちゃんは佳蓮さんにとって、絵を描くことが大好きでケンカが嫌いな、ごくふつうの弟。唯一ふつうでないのは、おーちゃんが自閉症だということ。けれども、この「特徴」のお陰で、本書はとてもユニークなものになっています。

 もっともユニークと思ったのは、本書には2つの視点が設定されていることです。この複数の視点のお陰で、読者である私たちは、自閉症という人間の多様性の一部について少し詳しくなることができます。

 視点の1つは、前にも書いたとおり「姉から見た弟」ということ。そしてもう一つは、「保育所から大学まで」という成長の視点です。それは、おーちゃんの成長であると同時に、著者である佳蓮さんの成長でもあります。

 成長の視点がなぜすばらしいかと言えば、自閉症という特性を、佳蓮さんがどのように理解して行ったのかということが、読者が追体験できる構成になっているからです。本書で描かれている保育園から小学校までの様子は、本当に「ハッピーデイズ」。それが、中学校に入って、心ない言葉を浴びせかけられたり、高校や大学への進学の過程で、いろいろな社会の壁にぶつかります。

 どんなに楽天的な人でも、自閉症の弟との日々が、「ハッピー」だけで語れる簡単なものでないことは容易に想像できるでしょう。しかし、それは実際のところどうしたものなのか、言語化はなかなか困難です。その部分を本書は、佳蓮さんの人生の追体験という形で読者に説明しています。これは説明の仕方として、非常に秀逸だと思いました。
 同時に、本書のテーマでもあろうと思われる「多様性を認める社会を目指そう」ということをうまく伝えていると思います。

 本書の後半には、佳蓮さんが現在思っている主張が、ごく控えめに書かれています。その一部をご紹介しましょう。学校で障害のある子を受け入れる意味について書かれています。これは実に素晴らしい構成だと思いました。

 障がいのある子をそばで見るということ自体に意味があることだと考えています。「こんな子もいるんだ」ということが分かるからです。本来は学校という小さな社会で、やっかいなことを考える練習もするべきなのです。(中略)本当は誰でもやっかいのタネになる可能性があるのです

 こうした主張は、多くの方がしていることでしょう。しかし、本書の「成長」という構成のお陰で、この主張が心から腑に落ちるようになっています。

 佳蓮さんが「本当は誰でもやっかいのタネになる可能性がある」と書いているように、私たちは誰もが障害者や老人など、誰かの世話にならないと生きていけない存在になる可能性があります。ですから、分け隔てることは、かえって私たちが生きにくい社会を作っているとも言えるわけです。こうしたことを、心から理解するためにも、本書を一読されることをお勧めします。
 口絵にある、おーちゃんのイラストや、文中に配置された佳蓮さんの4コママンガやイラストも魅力的な一冊です。

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